DIは21へ改善、年度の設備投資計画は7.6%増へ上方修正、借入金利が「上昇」と答えた企業の差は68。2026年9月短観には、同じ企業調査なのに一方向へ並ばない数字がある。
この三つを一つの景気の温度にしてしまうと、DIの改善を利益の伸び、設備投資の計画を実績、借入金利の回答を資金繰り悪化へと、順に取り違えやすい。本稿では、短観を「景況」「投資」「資金」の三枚の表として置き直し、決算資料と並べるときの使い方を組み立てる。
先に分ける論点
DI 21は企業回答の差、設備投資7.6%は年度の計画、借入金利DI 68は金利が上がったと答えた企業の差である。同じ短観の数字でも、時点と単位が違う。
DIが21でも、短観を一つの景気温度にしない

短観の業況判断DIは、「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を引いた差である。全規模・全産業では、2026年6月調査の18から9月調査の21へ3ポイント改善した。これは企業の回答差であり、売上高や利益の前年比ではない。
18→21と、21→15の予測は別の時点
9月の21は調査時点の「最近」の回答で、12月調査までの予測は15である。ここでは、6月の実績的な回答、9月の実績的な回答、12月への見通しを横に並べる方が、DIが上がった・下がったという一語よりも残る。
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| 見る列 | 全規模・全産業のDI | 何を表すか | 同じ意味にしないもの |
|---|---|---|---|
| 2026年6月調査 | 18 | 3か月前の「最近」回答 | 9月時点の状況 |
| 2026年9月調査 | 21 | 調査時点の「最近」回答 | 売上・利益の成長率 |
| 2026年12月調査までの予測 | 15 | 9月回答時点の先行き見通し | 12月の確定値 |
21から15へは6ポイントの低下見通しである。だから21という数字だけを「企業が強い」と結論づけるのではなく、現在の回答と先行きの回答が並んでいることを残しておきたい。
製造と非製造、規模別で向きが異なる
大企業では製造業が22から24へ2ポイント改善した一方、非製造業は37から35へ2ポイント低下した。中小企業では製造業が9から14へ5ポイント改善し、非製造業は15で横ばいだった。
つまり「大企業製造業DIが24」という見出しは、非製造業や中小企業まで同じ方向に動いたという意味ではない。保有企業の決算説明資料を読むときも、製造か非製造か、輸出か国内サービスかを分けずに短観の代表値を当てはめない方がよい。
読み違えやすい点
業況判断DIのポイントは、回答の差であって成長率ではない。9月の「最近」と12月までの「先行き」も、同じ確度の数値ではありません。
設備投資7.6%は、実績ではなく年度計画

全規模・全産業の設備投資額(含む土地投資額)は、2026年度計画で前年比7.6%となった。日銀が示す修正率は6月調査から+0.8ポイントなので、前回計画は6.8%だったと再計算できる。
6.8%から7.6%への修正幅を、そのまま実績にしない
この+0.8ポイントは、年度途中に企業が置き直した計画の差である。計画額がすでに支出されたという意味ではない。次の決算で設備投資額やキャッシュフローを見るときは、短観の7.6%を「経済全体の実績」、会社の決算を「個社の実績」として別の行に置く。
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| 区分 | 2026年度の設備投資計画 | 6月調査からの修正 | ここから直接は言えないこと |
|---|---|---|---|
| 全規模・全産業 | 7.6% | +0.8pt | すでに7.6%増の投資が完了したこと |
| 大企業・全産業 | 11.3% | -0.2pt | すべての業種が増額したこと |
| 中小企業・全産業 | -4.7% | +4.0pt | 投資余力や資金繰りが同じ水準であること |
大企業・中小企業では水準も修正幅も異なる。全規模合計だけを読むと、「計画が上方修正された」という事実は見えても、どの規模の企業が同じ足取りなのかまでは分からない。
土地を含み、ソフトウェアと研究開発を含まない
この7.6%は土地投資額を含む一方、ソフトウェア投資額と研究開発投資額を含まない集計である。デジタル投資や研究開発が重要な会社の決算と結びつけるなら、短観の設備投資計画だけで投資の全体像を作らず、会社側の設備投資、ソフトウェア、研究開発費の注記を別々に置く必要がある。
「設備投資が増える」という同じ言葉でも、短観の集計範囲と会社の会計上の科目は一致しない。範囲の違いを残すことで、計画の数字を過大に使いにくくなる。
金利上昇DI 68と資金繰りDI 11を同じ結論にしない

借入金利水準判断DIは、全規模・全産業で61から68へ7ポイント上昇し、12月までの予測は71である。一方、資金繰り判断DIは11、金融機関の貸出態度判断DIは13で、いずれも6月から変わらなかった。
この並びは「金利の上昇を感じる企業が増えた」と「資金繰りが苦しいと答える企業が増えた」を同じ文にしてはいけない例になる。
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| 三つの問い | 9月調査の全規模・全産業DI | 差の向き | 使いどころ |
|---|---|---|---|
| 借入金利水準 | 68 | 「上昇」−「低下」 | 金利条件が上向いたと答える企業の広がり |
| 資金繰り | 11 | 「楽である」−「苦しい」 | 資金繰りの回答差 |
| 金融機関の貸出態度 | 13 | 「緩い」−「厳しい」 | 融資姿勢の回答差 |
企業が答えた「上昇」と、政策金利1.25%は単位が違う
日銀は9月18日の金融市場調節方針で、無担保コールレートを1.25%程度へ誘導するとした。これは金融市場の運営目標である。短観の68は、企業が借入金利について「上昇」と答えた割合と「低下」と答えた割合の差であり、68%でも金利68%でもない。
この二つを同じ数字にしないと、政策金利の水準、企業の借入条件の変化、企業の資金繰りを別々に読み取れる。たとえば決算資料に支払利息や借入残高の説明がある会社では、短観の68は背景の一列、会社の注記は個社の一列として置く。
資金繰り・貸出態度・借入金利は三分岐になる
金利が上がっても、資金繰り判断や貸出態度が同じ方向へ動くとは限らない。今回の短観では、全規模の借入金利判断だけが61から68へ変化し、資金繰り11と貸出態度13は横ばいだった。
三つのどれか一つが動いたときに、残り二つを自動的に補わないことが大切だ。借入コスト、資金の回りやすさ、金融機関の姿勢は、企業の立場からは関係していても、同じ設問ではない。
保有企業の決算へ持ち帰る三枚フレーム
短観を次の決算まで使うなら、数値を覚えるよりも三つの欄を作る方が再利用しやすい。
すでに日本株を保有している人:会社の数字を三列に置く
- 景況の列: 会社の受注・販売・顧客業種は、製造/非製造とどちらに近いか。
- 投資の列: 会社が示す設備投資、ソフトウェア、研究開発は、短観の土地込み・ソフトウェア等除きの計画とどこが違うか。
- 資金の列: 支払利息、借入残高、返済期限、資金繰りの説明のうち、決算で更新されたものは何か。
この欄は、短観の数字から個社の業績を推測するためのものではない。企業が出す決算のどの注記を先に読めばよいかを、景況・投資・資金へ分けるための置き場である。
決算を待つ人と、金利商品を持つ人では出発点が異なる
決算を待つ人は、年度計画と実績を混ぜないことから始められる。金利に関係する債券やETFを持つ人は、借入金利DIをその商品の利回りや市場価格へ直結させず、政策金利、企業の資金需要、商品固有の金利感応度を別の資料で追うことになる。
次の短観では、21、7.6%、68を丸ごと入れ替えるより、三つの列のどこが前回から動いたかだけを記録するとよい。こうすると「DI改善」と「資金条件の変化」が同じニュースに見えても、どの種類の数字が変わったのかを残せる。
本稿は公開資料の読み方を整理したもので、特定の株式・債券・投資信託等の売買や投資成果を勧めるものではありません。

